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第4回コテキリの会|報告
参加者の声

参加者の皆様からお寄せいただいた

情報・質問・感想等をご紹介いたします。

同志社大学古典教材開発研究センター

第2回研究集会(第4回コテキリの会)

「古典籍✖教材性―和本・くずし字が「教材」!?」

■日時 2022年3月27日(日)13:00~17:00
■場所 Zoomによるオンライン

センター長による総括

 本日、古典教材開発研究センター第2回研究集会(第4回コテキリの会)を盛況のうちに無事終えることができました。和本の魅力を存分にお話し頂いた基調講演の佐々木孝浩様、第二部・第三部の登壇者の皆様、和本やくずし字を用いた実践のおもしろさが伝わるご発表に深く感謝申し上げます。
 基調講演は、古典籍を教育に活用することを念頭に和本の基本をわかりやすく整理して提示しつつ、物としての本の多様性と古典籍の特性を端的にお示し頂きました。そして、古典籍を活用していく可能性を具体的に提案しつつ、そこから過去と未来をつなぐタイムカプセルとしての古典籍の本質に言及され、文化資源としての古典籍の豊かさを指摘されました。本来、古典籍にはそのものに教材性が備わっており、それをいかに活用していくことができるのか、実例を示しつつわかりやすく解説頂きました。古典籍の魅力に触れることができる豊穣な時間を過ごすことができました。
 第二部では、和本やくずし字を使った教材の事例報告を行いました。同志社大学プロジェクト科目履修生がくずし字教材として制作した絵合わせカルタを使った実践のなかで、現代につながるくずし字教材の必要性と意義を指摘しました。みんなで教材!という方向ですね。名古屋大学教育学部附属中学校・高等学校の加藤直志氏は日本近世文学会の出前授業として、和本を使った授業の実践例を示しながら、教育効果の検証も含めて、和本を用いた授業の将来像を感じさせる内容でした。
 第三部では、少し順番を入れ替えて古典教育と古典籍活用として整理してみました。
 古典教育として2件ありました。武蔵高等学校中学校の加藤十握氏が、カリキュラムのなかにくずし字教材を使った授業を位置づけ、具体的な教材を提示し、くずし字学習が、古典学習の動機づけや古典の学び方を学ぶ姿勢を身につけることを指摘されました。宮崎大学の永吉寛行氏は書写の授業実践の報告として学習指導要領にも触れつつ、「東海道五十三次」の看板のくずし字の解読・読解を通して、看板にくずし字を使用する表現効果についてグループワークをさせた結果を報告されました。
 古典籍利用として次の2件がありました。大阪商業大学(非)高須奈都子氏が研究資料としての小袖雛形本の教材性について検討することで、古典教材としての可能性を指摘し、具体的な教材案を提示されました。ファッションブックとしての小袖雛形本の活用例でした。西尾市岩瀬文庫の林知左子氏は、岩瀬文庫において古典籍を展示する時の題材の選び方としていかにして関心を引くかがポイントであることを指摘し、古典籍は人々の”生”そのもののタイムカプセルとして過去から今へと文化・歴史・存在を実感させてくれる存在であることを示されました。
 その後のパネルディスカッションでは、古典籍の教材性をめぐるそれぞれの切り口やアプローチ、古典籍の多様性を活かした学習や体験、もっと伸びやかに古典籍を活用していく姿勢の必要性、今後の課題等が話し合われました。
 全体として、現場での実践の中から浮かび上がる和本やくずし字が本来持っている魅力や教育力、すなわち教材性を掘り起こし提示していくことで、新しい古典教育・古典教材への可能性を切り拓くきっかけ作りになったのではないかと思っています。これは今回の企画のねらいでもありました。
今後も、多くの参加者と、楽しく、自由闊達な雰囲気の中で意見交換ができること、そこで共有された知がやがて大きなうねりとなって古典のおもしろさを引き出す教材作りがさらに拡がっていくことを念願しています。
 9月11日(日)に第5回コテキリの会を開催する予定です。基調講演は、ケンブリッジ大学ラウラ・モレッティー氏です。いつもの通り実践報告と意見交換を企画しています。ご期待下さい。

​2022年3月27日   山田 和人

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当日寄せられたご質問

◉登壇者への質問
WEBフォームからお寄せいただいたご質問です。研究集会当日、オンライン会場でご講演者にお答えいただいた回答の記載は省略いたします。また、回答者が特定できる記述に関しては加工しております。ご容赦ください。

◉全登壇者への質問
●今年度高校三年生にくずし字教育を行い発表させたのですが、教材となるくずし字資料の選定に非常に苦労しました。生徒の興味をひきやすい内容で、くずし字解読の難易度が低く、かつ著作権侵害にならないくずし字教材の見つけ方をご教示いただけますと幸いです。予算と立場(非常勤講師)の関係上、和本を購入したり外部講師を招くことが難しい教員でもくずし字教育に取り組んでいきたいと考えております。よろしくお願いいたします。

●アメリカの〇〇美術館の〇〇です。日本の方にはあまり知られていませんが、じつは古典籍をたくさん所蔵しています。海外からこのような試みに参加するにはどうすればよいか、アドバイスをいただければと思います。

◉プロジェクト科目履修生への質問
●この企画は、どのような長期的な教育目標のもとで、どのような単元の流れの中で配置されたのでしょうか?(単発あるいは短期の色物企画としては理解できますが、長期的に見た際の教育目標と、それと企画との整合性が取れているかどうかが気になります)

●「現古絵合わせかるた」とても面白そうな教材だなと思いました。どこかで販売もしくは公開されていないのでしょうか。

◉加藤十握氏への質問
●もし貴校のような高学力層の生徒が集まる学校ではない前提で、授業において「古典に親しむ」指導をされるとすると、先生はどのようなことを意識されますか?

◉髙須奈都子氏への質問
●「服飾に関する技術書」として、現代生活でも学びになるような内容は書かれていますか?もしあれば具体的な内容をご教示ください。

◉永吉寛行氏への質問
●中学校でのくずし字の利用を興味深く拝見いたしました。生徒の利用する分類をY字チャート(3つの分類)にした意図があれば伺いたいです。くずし字とは直接関係ない質問で、申し訳ありません。よろしくお願いします。



以下のご質問はパネル終了後に寄せられたため、回答もお示しします

◉林知左子氏への質問
●カレーのレシピはどの本に載っていますか? 一般の人がアクセスできますか? 市販本あるいはWebなどあれば教えてください。

◉佐々木孝浩氏・加藤十握氏・加藤直志氏への質問
●ご発表ありがとうございます。今年度、大学付属校の中間一貫校で非常勤講師をしており、中学2年生を対象にくずし字学習や実際に和本に触れる授業を実践いたしました。授業での実践を振り返りながら、皆様のご発表を拝聴させていただきました。
 以下質問です。実物の原本資料を扱えない場合、複製本を教材として利活用するのはいかがでしょうか。
 例えば、日本古典文学会『復刻日本古典文学館』(1971〜1985)という複製本のシリーズがありますが、原本に忠実に作成されております。また、古文だけではなく、近現代文学についても、日本古典文学館編『複製近代文学手稿100選』(二玄社、1994)は主要な近代文学作家81人の計100作品の自筆原稿・自筆草稿の一面が原寸カラーで掲載されております。
 くずし字を読む、読解教材と連動させる、原寸大の原本資料の雰囲気を感じ取る、というレベルであれば、十分に教材としての可能性を感じます。
ご意見をいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。


加藤直志 複製本でも教育効果はあると私も思います。私も、東京の五島美術館で購入した、「国宝源氏物語絵巻」「国宝紫式部日記絵巻」の巻子本の複製(現物の3/4サイズ)を生徒に見せることがあります。これらだと、正確な翻刻が確認しやすく、授業で紹介しやすいといった利点もあります。

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参加者からの情報提供

WEBフォームへお寄せいただいた情報をご紹介いたします。

●大学教員
 「けいおん!」の山田監督が手掛けたアニメ『平家物語』が中国、日本、北米のプラットフォームで先行配信することで、製作費と質を担保して話題にした結果、注目度が急上昇していることが日経エンタテインメント4月号に記されています。こちらは、古典そのもののアニメは今の潮流と大きく離れていることから冒険ともみなされていましたが、古文がそのまま異性装の少女の琵琶の音色に載せられていて、言葉を音にする表現や複雑に絡み合う人間模様が丁寧に描写されていることが視聴者の心をつかんだとされています。こうした音と絵からの古典の発信、国を超えての発信は、古典を教材にする際のヒントになる気がしています。

●中学教員
 私の勤める公立中学校では、GIGA端末が今年度導入され、生徒全員が手にしました。デジタル教科書も生徒全員が使用できたため、添付されている古典の動画、画像の資料が簡単にタイムリーに使えて非常に授業で便利でしたが、来年度以降、英語以外は全て有料化?されてしまうとのことで、公立学校としては、すごく残念です。できれば、探すのが難しい古典分野だけでも無償化にならないかと思います。

●大学教員
 現代文とくずし字を融合させる実践として、『舞姫』の出張中の豊太郎に舞姫が送る和歌という設定で、和歌(現代語でも57577ならOK)を和紙にくずし字で書かせて、折紙にして、ランダムに別の学生に渡すという試みをしてみました。エモい内容になるだけに、もらった方も真剣に読んでいて、舞姫の気持ちもよくわかったようです。(「この結末がわかっていたら、この恋を始めただろうか」といった内容の和歌が男女それぞれにあって現代ソングの影響も感じました。)


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参加者の感想

●今回も大変貴重なお話をありがとうございました。どのお話も大変参考になり、また、現在の自分の授業を省みるきっかけにもなりました。今回の学びを今後に生かせるように努力したいと思います。

●本日はありがとうございました。具体的な授業のやり方、学校の新指導要領に即し、学校の先生方がどのように古典籍を活用しているのかが分かりました。学校では、くずし字を本格的に読んでいてびっくりしました。
 私の勤務している博物館では、土器などには老若男女問わずも興味関心を持ってくれるのですが、古典籍やくずし字で書かれた手紙があるところでは、素通りされてしまったり、立ち止まることも少ないです。書かれている内容を説明するためには、文字は欠かせず、図なども使いますが、解説を読んでもらうだけでも一苦労です。いかにくずし字や古典籍の敷居を低くして興味関心を持ってもらえるか、試行錯誤の毎日です。
 当館では、ある学芸員が講演会で、坂本龍馬の手紙を聴講者と一緒に音読したことがあります。その時の聴講者の感想は、「とても楽しく、坂本龍馬が身近に感じられた」という声が多かったです。このように声に出して読むだけでも古典に興味を持ってもらえるのではないかなと思いました。今回の会を通じて、古典籍に向き合うワークショップなどを継続していく、地道な活動が必要なのではないかと思いました。

●今回も楽しく勉強させていただきました。会の最中に度々あがった「誰にでも使える教材の作成」というのは、現実問題として難しいのではないでしょうか。「くずし字」に親しむ機会がほとんどないままに国語教員となった方も少なからずいらっしゃるかと思います(国語国文学専攻以外の学生でも教員免許取得可)。教員養成カリキュラム自体に問題があるのかもしれませんが、現役教員に向けた講習会のようなものもより積極的に開催する必要があるのではと思いました。

●内容の濃いプログラムで感動しました。小中学生のくずし字親子講座をやっていますが、続けて行く励ましと教材開拓の示唆を頂きました。有難うございました。

●たいへん貴重な学びと取り組みの成果に触れることができました。交流会ではハワイの古典籍をご紹介下さった〇〇さんに教えていただいた米国におけるボランティアの取り組みが印象に残りました。ありがとうございました。

●いままで古典教材開発研究センターの活動を拝見してきて一番疑問であるのは、センターのホームページに掲げられているような「日本の古典文学を未来や世界へと繋げることができる人物を育成する」ことが、果たして真の意味でできているかどうか、ということである。確かに教材を開発したり、出前授業を行ったりと精力的な活動を行っており、模範とすべきであるとは思われる。ただし、全国の教員がこうした活動を知っているとは思えないし、そもそもセンターの活動を知ったからといって、どの教員もが翻刻ができ、また書誌学/書物学の知識があるとも考えにくいから、なかなか再現できるとは思えない。この点についてどのように乗り越えるかを考えなければ、せっかくのセンターの活動も一回的なもので終わってしまうか、いわゆるエリート校だけの取り組みとなってしまうのではないか。
 これを克服するために、例えば大学で書誌学の講座を開くことや、佐々木先生が行っているようなオンライン講座を積極的に受講させること、また山田先生が行っているように翻刻の課外活動を行うこと等の取り組みを通じて、書誌的な知識を有した学生を育成し、将来の教育者を多数生み出すことが有効であると思われる(もっとも、課外活動は教員の負担が増加するため、持続可能ではないかもしれない)。これらは単なる私の思い付きであるから克服法としては漠然としたものであるが、この点について、センターの活動をより有効なものとするためにも、センターは議論しなければならないと思われる。
 また、構造的な問題ではあるが、複数の教員で同一授業を持つ場合、なかなか和本を扱うような(現在の教育現場において)発展的な授業というのは、なかなか実施しがたいように思われる。こうした問題を解消するためにも、和本の知識を有した大学生を育成するという視点は、欠くべからざるものだと思われる。
 ただし、すぐにそうした大学生を育成することは予算などの関係で難しいと思われるので、まずは博物館などといった社会教育機関との連携(チーム学校)を推進することもいいかもしれない。各教育委員会に、センターが仲介して、社会教育機関の出前授業を含めた活用法を紹介することならば、まだ可能なのかもしれない。

●MOOCにおいて和本に関する講座登録者の外国人登録者の方が多いという事実は、今私がおかれている現場と通じるものを感じました。
現在国際バカロレア校に勤めておりますが、文部科学省主導の日本の教育課程で学んできた生徒は「日本語」「日本文化」に対する関心が低く、インターナショナルスクール出身の生徒の方がそれに対する関心が明らかに高いという印象です。前者の中には「古典」はおろか、「日本語を学ぶ意味ってあるの?」という生徒もしばしば見かけるほどです。その疑問に応えるためのシラバスを設計して実践し、生徒によくよく考えてもらったうえで卒業させていますが、ただただ切ないです。

●「合巻が和本の入り口となる」というご主旨のお話がございました。和本やくずし字の初学者にとって絵入り本がやさしい入り口となるというご主旨には賛成ですが、合巻は書き入れが大変細かく、人物関係も複雑になりがちで、初学者にとって見るにはよいテキストですが、読むにはややハードルが高いように思われます。また、最近の学生(含、大学生)は旧仮名遣いすらおぼつかないほど古典語には馴染みがありません。その点でも合巻の長文の書き入れは倦ませてしまうのではないかと心配してしまいます。個人的には武者絵本などの絵入りで書き入れが簡略な作品の方が入り口に向いているように感じています。

●「くずし字の読解」に重きをおいた教育プログラムが多い中で、佐々木先生の書誌学の分野からの「書籍のかたち」もあわせた理解を促すご提案を拝聴し、これこそ文学の享受も合わせた真のおもしろさ!と気付かされました。教育活動の中で、KuLA等の学習支援アプリを活用してくずし字の読解を目指すことは、学生からの反応もいいのですが、佐々木先生にご教示いただいた「書籍のかたち・内容」とともに学ぶ時間をつくることによって、より広い視野で、古典文学や文化全体について考える機会になると思いました。大切な気付きをいただき、感謝申し上げます。また、私は情報科学部で古典文学科目を担当しているということもあり、佐々木先生が『塵劫記』のような算術書をご紹介いただいたうえで、くずし字が結ぶ文理融合について言及されたことで、理系分野でのくずし字学習の重要性を認めていただけたように思いました(私の伝え方が悪いせいですが、所属先では重視されないことがありますので…)。佐々木先生が文理融合について触れてくださったことはとても心強く、今回ご教示いただいた内容をふまえた授業内容を展開しようと気持ちを新たにいたしました。ご講演、誠にありがとうございました。

●「くずし字」に触れる教材として、カードゲーム形式とすることがとても良いと思いました。中学2年生を対象として和本(版本「今古和歌うひまなひ」)を使用し、今の本との比較を行いました。くずし字の一覧表をワークシートの裏面に印刷したので、文字に興味を持った生徒は自主的に解読を試みていました。元来触れたことのない和本にかなり興味持ってくれた印象です。

●色物企画としては面白さを感じましたが、これがレギュラーの古典授業における「忌避感」を長期的に軽減するのに実際のところどれだけ役に立ったのか疑問に思いました。
 授業終了直後に「面白い」と感じることと、数か月後の古典の授業において前向きであることとは同値ではないように思います。もしこのあたりのことを検証されていたら、情報をいただきたいです。
 ハザードマップの例も、最低でも「現代のハザードマップ作成の際の参考になっている」くらいのことが理解されないと、「古典の有用性」は伝わりづらいでしょう。「昔から似たようなものがあった」ことの証明にはなっても、「現代において発表されているものがあるからそれを見ればいい(わざわざ古典を見る意味はない)じゃん」と言われれば厳しいです(そして「真面目な」生徒たちはそうした感情をしまい込んで表面化させません)。

●学生時代、古典にも歴史にも苦手意識があり成績も悪かったですが、大人になってくずし字を読めるようになってみて、学生時代に教科書に載っている作品を原文で読める経験をして昔の人を身近に感じられていたら、古典や歴史に対してもっと苦手意識が薄れていただろうと思います。
いずれは義務教育の中でくずし字に一度は触れるのが当たり前になってほしいと思いますし、先生方の活動に期待しております。

●ブレイクアウトのルーム3に参加して古典籍を利用した授業の可能性は、中学の国語、書写、高校の国語総合、古典のみならず、国語表現、書道、日本史、さらには言語文化、現代の国語、古典探究、文学国語、場合によっては道徳や、総合、HRでも展開が可能かと思いました。大変刺激的な時間をありがとうございました。

●多様な資料の紹介を受け、中等教育課程に所属する生徒の古典嫌いを減らすために、資料や知識の面でのプロである専門家と、教科指導のプロである教員とが分業して情報共有を図ることの重要性を感じました。古典籍の紹介を専門家の方にお願いし、それを対生徒向けに噛み砕いて授業をデザインするのは現場感覚のある教員の役目であろうと感じます。

●古の人とつながるツールとしての古典籍という視点、大切だと思いました。TVドラマ「ドクターホワイト」(3月28日放映)で古文の勉強の意味を見出せない主人公(浜辺美波)に友人(岡崎紗絵)が「「しのぶれど~」の恋の気持ちが今の自分とぴったりってすごくない?」的なことを言っていたので、一般にもしっくりくる視点なんだなと思いました。

●今回も様々に刺激的な御発表を拝聴でき、感激しているところです。ただ、今までのコテキリの会における取組全体に対して言えることですが、授業報告がほとんどを占め、教育者に焦点を当てた御発表や取組がないことが残念です。
 今回の基調講演では、佐々木先生が書誌の基礎知識についてお話してくださりましたが、そのような知識を持てている国語教員は現段階でほとんどいないかと思います。大学にさえ書誌学の授業がない所もあります。例えば同志社大学では、大学院も含めて書誌学を学べる講義がないのが現状です。図書館に和本があったとしても、書誌学の授業がなければ和本に触れる機会は圧倒的に少なくなるかと思います。関西の都会における有名な私立大学で、教育学部と異なり、専門教科により深く探究できる文学部においてさえこの現状なのです。その中で、「教育にくずし字・和本を」という動きがあってもその広がりは非常に限定的なものに終始するのではないか、ということが危ぶまれます。知識を、書籍を、機会を持っている人だけが古典籍を用いた授業を行うことができるような気がしてなりません。
 先日よりコテキリの会が行っている取組の「和本バンク」は、教育者も手軽に和本を手にすることができるという点で、教育者に寄り添った重要なものかと思います。一方、和本の取り扱い方や基礎知識が備わっていない教育者は、「和本バンク」を使ってみようという動きを行わないとも思います。教育者なら書誌学の本を読んでしまえば良い、という考えも確かにあります。しかし、公立を中心とした学校の現役教員にはそのような時間さえない場合が非常に多いです。そういった教員のために、くずし字教育に取り組むためのスタータセットのような書籍やサイトを作成するのはいかがでしょうか。また、今後教員になる大学生のために書誌学の授業や集中講義、コテキリの会の講演などを行ってはいかがでしょうか。
 そういった点からは今回の佐々木先生のご講演や、林 知左子氏の御発表は教育者に向けた基礎知識の提供に繋がるように思いました。今後もコテキリの会の取組を微力ながら応援させていただきます。

​●くずし字自体の学習とは直接関係ありませんが、和本のオーディオブック的な音声コンテンツや動画があったらより学習しやすそうに思います。和本を読んでいると、素人には言葉遣いや語彙が聞きなれないものが多いですが、江戸くらいの日本語を学習する上で、耳からインプットする手段がなかなかないのが一般的な外国語学習と比べて不利だと感じているので、聞くことができたらもう少し学習の難易度が下がる気がします。

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